匝瑳市(そうさし)
米どころ、そして植木のまち
匝瑳市は千葉県の北東部にあり、海洋性気候で年間平均は15度、夏は涼しく冬でもほとんど降雪がみられない温暖な地域です。かつては毎月8日に市が開かれ、市場町として発展した元八日市場市を中心に、2006年(平成18年)に隣接する匝瑳郡野栄町と合併して匝瑳市が誕生しました。
市の北部は谷津田が入り組んだ複雑な台地になっている一方、南部は市街地を過ぎると九十九里平野の平坦な土地になっています。
第一次産業が盛んで至る所に田園風景が広がり、米どころであることが伺われますが、長ネギや赤ピーマンの生産も行われています。珍しいのは市の天然記念物になっている大浦ごぼうは、直径30cmあまり、長さは1mにもなる巨大なごぼうで、毎年成田山新勝寺だけに奉納され、参詣に訪れる信徒に出す精進料理の縁起物として使われています。
多くの農産物がある匝瑳市ですが、大正時代に病害虫や寒さに強いイヌマキを関西方面に出荷したことがきっかけで、全国でもトップクラスの植木の産地になり、市の南部の九十九里平野地区を中心に国内最大の栽培面積を誇るようになりました。イヌマキは主に農家の垣根として使われ、中には7mを越える巨大な槇塀もあり、観光スポットして取り上げられています。
鉄道は総武本線が横断し、市内には八日市場駅、飯倉駅があります。総武本線にほぼ並行して国道126号が、北西部の一部に296号が通っていますが、高速道路などは通っていません。
仏教とキリスト教の歴史があるまち
匝瑳という地名は、平安時代前期に書かれた「続日本後紀(ぞくにほんこうき)」によると、現在の近畿地方にいた豪族の物部小事(もののべのしょうじ)が現在の関東地方を征した功績で朝廷から下総国の一部を与えられ、匝瑳郡(そうさごおり)という名前にし、その後、子孫が物部匝瑳氏(もののべのそうさうじ)を名乗っていたことに由来するとされています。
市内には映画やドラマの撮影場所として、またコンサート会場などのイベントスペースとしても活用されている歴史的な場所、飯高檀林(いいたかだんりん)があります。
1573年(天正元年)に要行院日統(ようぎょういんにっとう)が匝瑳市飯塚の光福寺に僧侶の勉強の場、日蓮宗の学室を開いたのが前身で、その後1579年(天正7年)に京都から教蔵院日生(きょうぞういんにっしょう)を招き妙福寺に移され、翌年に現在の場所に移りました。この飯高檀林は1872年(明治5年)の学制発布で廃止されましたが、その名跡を継いだのが立正大学で、境内に「立正大学発祥之地」の碑が建てられています。
匝瑳市はキリスト教にも縁があり、日本初のイコン画家の山下りんが描いたものが田園風景の中にポツンとある教会に残されています。イコン画とは、イエス・キリスト、聖人、天使、聖書における重要出来事、たとえ話、教会史上の出来事などを描いたもので、山下りんのイコン画が1891年(明治24年)に開かれたロシア正教のハリストス須賀正教会に残っています。この教会にある10面のイコン画は千葉県の指定文化財になっています。
鉄道の駅が総武本線の2駅のみと少ない匝瑳市ですが、かつてはもう一本の路線が市内を走っていました。1911年(明治44年)に成田―三里塚間で開業した成田鉄道(現千葉交通)の多古線は、1926年(大正15年)に八日市場駅まで延長され営業を続けていましたが、太平洋戦争後の1946年(昭和21年)に廃止されてしまいました。その痕跡は市内には残っていませんが成田市内に一部その跡が残っています。
自然エネルギーと農業を共存させるメガソーラー
匝瑳市は、第二次匝瑳市「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において2015年(平成27年)には37,261人いた人口が2020年(令和2年)には35,674人と5年間で約1,600人の人口減少が発生していますが、出生率の向上や転出超過の緩和措置を実現する事で2060年(令和42年)においても22,000人以上の人口を保つことを目標としています。
匝瑳市の植木が基幹産業であることから人々が集まり、楽しみ、そして活躍する場所を創出する事を目指し、「ガーデンコミュニティ戦略~そうさ!!匝瑳市で活躍しよう~」というキャッチフレーズを掲げ、改革を進めています。更に匝瑳市植木組合は、全国トップクラスの植木の産地が日本一になるためのブランド強化として、世界に向けたロゴマークとキャッチコピーをデザインするプロジェクトに取り組み、海外への発信を推進しています。
農業が盛んな匝瑳市も耕作放棄地が目立つようになり、その対策に新たな取り組みが誕生しました。2017年(平成29年)に市内の約32000㎡の耕作放棄地に、日本初の1MW級の大規模太陽光発電所「匝瑳市メガソーラー発電所」を作り、太陽光パネルの下で農業を行う農地として再生させた日本随一の事例として注目を集めました。農作業は地元の農業生産法人委託料を払って請け負ってもらい、ソーラー発電で得た売電収益の一部は耕作委託料に、残りは地域の協議会に環境保全基金として年間200万円拠出されるというものです。
ソーラーパネルの下には、有機大豆、有機麦をはじめとした作物が作られ、市民出資のパネルオーナー制度を導入して、土地を持たない人でもソーラーシェアリングに参加できるようにしました。農業と自然エネルギーの未来が見える新たな取り組みは、今後の成果に大いに期待できるのではないでしょうか。
植木のまち匝瑳市役所前にもイヌマキの木が植えられている
あたりには複数のソーラーパネルの発電所が出来ている
(2020/12/10)